2024年度は全国平均で50円引き上げ、1054円とすることが決定しました。
これは過去最高の引き上げ額であり、引き上げ率に換算すると5.0%になります。
今回の最低賃金の引き上げに向けて、企業はどのような対応をとるべきなのでしょうか?
そもそも最低賃金とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
「地域別最低賃金」とは、その名称の通り都道府県別に設定されている最低賃金です。普段私達がよく耳にする最低賃金とは、この「地域別最低賃金」を指すことが一般的です。
2024年10月1日からは、東京都の地域別最低賃金は1,113円から1,163円となります。
一方「特定(産業別)最低賃金」とは、基幹的労働者を対象とした「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されている賃金です。現在全国で227件の最低賃金が定められています。
例えば千葉県を例に取り上げてみますと、地域別最低賃金は1,076円ですが、鉄鋼業は特定(産業別)最低賃金の対象産業に分類されますので、最低賃金は特定(産業別)最低賃金の1,096円が適用されます。
このように地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金を比較した際、どちらか一方の高い金額が最低賃金として適用されますので、自社の業種・地域の最低賃金の確認は必須と言えるでしょう。
下回ってしまった場合の罰則
最低賃金はすべての労働者にあてはまるもので、正社員・派遣社員・パート・アルバイトなど雇用形態には関係なく適用されます。
どのような理由があっても最低賃金を下回ることはできず、使用者は最低賃金以上の金額を従業員に支払わなければなりません。
たとえ使用者・労働者双方の合意の上で最低賃金額の雇用契約を結んでいたとしても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。
つまり、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはならないのです。
また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法により50万円以下、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法により30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
最低賃金の確認方法とは?
それでは現在支払われている賃金が最低賃金を上回っているかはどのように確認するのでしょうか?
最低賃金の対象となる賃金を確認
最低賃金の計算に含まれる賃金とは、毎月固定給として支払われている基本給や各種手当をつかって計算します。
ただし、以下の手当等は最低賃金算定より除外されることとされています。
- 慶弔手当など、臨時的に支払われるもの
- 賞与
- 残業手当 (固定残業代も含む)、休日手当、深夜手当
- 通勤手当
- 精皆勤手当
- 家族手当
なお 扶養家族の有無にかかわらず家族手当を支給、遅刻・早退等があっても精皆勤手当を支給している等、4~6の手当を従業員に「一律支給」している場合は最低賃金の算定対象に含まれます。
手当の名称ではなく支給の実態で判断しますので、計算時には注意が必要です。
最低賃金額以上かどうかの確認方法
最低賃金に含まれる賃金額を確認したら、以下の方法で比較します。
A. 時給制 : 時給≧最低賃金額(時間額)
B. 日給制 : 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
C. 月給制 : 月給÷1か月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
D, 出来高払制・請負制 : 賃金総額÷当該賃金計算期間の総労働時間≧最低賃金額(時間額)
具体例を用いて計算してみましょう。※東京都の最低賃金を基に計算しています。
【例1:従業員Aの場合】
①基本給20万 ②役職手当4万 ③固定残業代3万 ④1か月平均所定労働時間160時間
計算式 :(①20万+②4万)÷④160時間=1,500円 最低賃金以上
【例2:従業員Bの場合】
①基本給15万 ②役職手当1万 ③固定残業代6万 ④1か月平均所定労働時間160時間
計算式 :(①15万+②1万)÷④160時間=1,000円 最低賃金未満
【例3:従業員Cの場合(雇入れ時からの給与変更なし)】
①基本給14万 ②役職手当2万 ③固定残業代4万 ④1か月平均所定労働時間160時間
計算式 :(①14万+②2万円)÷④160時間=1,000円 最低賃金未満
【例4:従業員Dの場合(基本給等は低めに、固定残業代を高めに設定)】
①基本給12万 ②役職手当2万 ③固定残業代10万 ④1か月平均所定労働時間160時間
計算式 :(①12万+②2万)÷④160時間=875円 最低賃金未満
このとき、特に気をつけて確認して頂きたいのは、⑴雇入時から給与が変更されていない労働者、また、⑵基本給等は低めに、固定残業代を高めに設定している労働者です。
雇入時の最低賃金を参考に給与設定を行い、特に従業員からは不満の声が上がっていなかったのでそのままにしていた、固定残業代を多く設定することで給与総額は高めにして残業代の計算を簡素化している、という労働者がいる場合、最低賃金以下の給与設定となっている可能性があるので注意が必要です。
また、月給制の労働者の場合は定期昇給時も要注意です。
仮に1万円の給与アップとなった場合、どの手当にいくら増額するかによって最低賃金との比較単価が変わってきてしまうのです。
今回の最低賃金引き上げを機に、一度労働者の方々の賃金を見直しされてみてはいかがでしょうか?
最低賃金引き上げによる会社側の課題・対応
最低賃金の引き上げに合わせて、使用者が注意すべき課題点が多数あります。
人件費の増加
どの企業でも真っ先に挙げられる課題です。
従業員の賃金が増えれば、当然会社の人件費は増大します。最低賃金より高めの賃金設定をしている会社は問題ありませんが、最低賃金に限りなく近い賃金でパート・アルバイトといった非正規の労働者を雇用している企業は、人件費が高騰します。
人件費を抑えるため少ない人数で業務を回したり、労働時間の削減等、経営への多大な影響が発生する可能性があります。
中でも、非正規労働者の割合が高い企業にとっては大きな痛手となると考えられます。
正社員のモチベーションの低下
非正規労働者を最低賃金で雇っている会社であれば、最低賃金の引き上げにより非正規雇用者の賃金も連動してアップします。
中には非正規雇用の人件費を捻出するために、正社員の給与を減らす会社が出てきたり、または、正社員と非正規雇用の給与差が縮まることで、正社員のモチベーションが低下するリスクも考えられます。
つまり、人件費の底上げが難しい企業にとって、最低賃金の引き上げは正社員の維持にも関わるほどの悩みの種となってしまうかもしれないのです。
最低賃金の引き上げに活用できる助成金は?
最低賃金の引き上げに向けて、厚生労働省では中小企業・小規模事業者に対し生産性向上等の支援を行っています。
業務改善助成金
生産性向上のために設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)等を行い、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げた中小企業等に対し、かかった費用の一部を助成する制度のことです。
詳しくは厚生労働省のHPをご覧ください。
業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援|厚生労働省
まとめ
政府は働き方改革の一環として、年率3%程度の最低賃金引き上げを目標にしていますので、来年以降も同額程度の賃金引き上げが予測されるでしょう。
最低賃金は毎年引き上げ傾向にあり、その上がり幅も会社にとっては大きな負担になりますが、法で定められている以上は最低賃金を上回る賃金支払が義務付けられます。
また、HP等で最低賃金未満の賃金で求人募集をしている会社を見かけることもあります。そのような会社は、労働環境が悪い・賃金に対して関心がないといったマイナスのイメージへ繋がってしまう可能性も考えられます。
まずは現在の従業員の賃金を把握し、毎年の定期昇給や最低賃金引き上げ前に賃金見直しを行うようにしましょう。