2025年度の最低賃金改定により、全国加重平均は前年より66円増の1,121円となり、すべての都道府県で1,000円超えとなりました。東京都は1,226円となっています。
最低賃金が上がる度に企業の給与計算担当者が見落としがちな手続きがあります。それが社会保険の随時改定です。 最低賃金引上げによる賃金変更も随時改定の対象となる可能性があるため、今回は具体例を交えて詳しく解説いたします。
最低賃金については、こちらの記事をご覧ください。
https://meisanbo.com/20210908roukihoihan/
◆随時改定とは?
最低賃金の引上げや昇給・降給などにより、従業員の給与額に変動が生じた場合、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」を見直す必要があります。
この見直し手続きが、いわゆる随時改定です。
実務上は「月額変更届」や「げっぺん(月変)」とも呼ばれています。
随時改定は、年1回の定時決定(算定基礎届)とは異なり、年度途中に固定的賃金が大きく変動した場合に行う臨時の改定です。これにより、実際の給与額に則した保険料が算定され、企業・従業員双方にとって適正な社会保険料負担が確保されます。
◆随時改定が必要となる3つの要件(日本年金機構より)
① 固定的賃金に変動があったこと
② 変動月からの3ヶ月間の報酬平均により、標準報酬月額が2等級以上変動したこと
③ その3ヶ月間すべての支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であること
これらの要件をすべて満たした場合、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目に新しい標準報酬月額が適用されます。
◆最低賃金の引き上げによって随時改定が必要になる場合の具体例
東京にパートとして〇〇不動産に勤めているAさん
毎月20日締め 翌月5日支給
月の所定労働時間は140時間(1日7時間 月20日間)
時給は1,163円
交通費は0円
標準報酬月額 160,000円
最低賃金の引き上げのため、2025年10月3日から時給が1,226円になりました。
繁忙期のため10月から1月は残業で所定労働時間より多く働くことがあった。
支給月 | 対象期間 | 労働日数 | 支給額 | 備考 |
11月 | 9/21-10/20 | 20日 | 167,230 | 改定前・改定後が混在 → 起算月にならない |
12月 | 10/21-11/20 | 20日 | 196,160 | 判定対象月 |
1月 | 11/21-12/20 | 20日 | 171,640 | 判定対象月 |
2月 | 12/21-1/20 | 19日 | 177,770 | 判定対象月 |
この条件を基に随時改定の対象になるかどうか確認してみましょう。
① 固定的賃金に変動があったこと
最低賃金法に基づく賃金の引上げは、昇給とは異なるものの、社会保険上は固定的賃金の変更として扱われます。この点を誤解されるケースもあるため、注意が必要です
② 変動月からの3ヶ月間の報酬平均により、標準報酬月額が2等級以上変動したこと
この場合の固定的賃金に変動月はいつになるでしょうか?
日本年金機構『標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集には「昇給・降給した給与が実績として1か月分確保された月を固定的賃金変動 が報酬に反映された月として扱う」とあります。
変更後の賃金が1ヶ月分確保されたのは、10月21日〜11月20日の給与期間である12月支給分が随時改定の起算月となります。
(引用)
給与計算期間の途中で昇給した場合、どの時点を起算月として随時改定の 判断を行うのか。 例:当月末締め翌月末払 いの給与で、当月15日以降の給与単価が上昇した場合。
(答) 昇給・降給した給与が実績として1か月分確保された月を固定的賃金変動 が報酬に反映された月として扱い、それ以後3か月間に受けた報酬を計算の 基礎として随時改定の判断を行う。 例示の場合であれば、給与単価が上昇した翌月支払の給与は単価上昇の実 績を1か月分確保できていないため、翌々月を3か月の起算点として随時改 定の可否を判断する。
引用元:標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html#cmsjireishu
12月から3か月間の報酬平均月額は、
(196,160円+ 171,640円+177,770円)/3か月=181,856円(1円未満切り捨て)
となり、標準報酬月額が180,000円になります。
160,000円(健保13等級、厚生年金10等級)から180,000円(健保15等級、厚生年金12等級)と2等級の変動に該当するので随時改定の対象になります。
③ その3ヶ月間すべての支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であること
3か月間すべて17日以上のため対象になります。
Aさんは①~③のすべてに該当するので随時改定の対象になり、12月から起算して4ヶ月目、つまり2026年3月分の社会保険料から変更になります。
◆まとめ
今回、最低賃金の引き上げによる随時改定について事例をあげてご説明しました。
注意事項をまとめると、
・最低賃金引き上げに伴う賃金改定は固定的賃金が変動したことになること
・賃金を変更後の給与が実績として1か月分確保された月を固定的賃金変動が報酬に反映された月として扱うこと
この2点は誤解しやすいので特にご注意ください。
このような複雑な随時改定の判定を、毎回正確に行うのはとても大変です。一つでも見落としがあれば、遡って保険料の差額請求が発生する可能性があります。
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