日本を含む多くの先進国では、少子高齢化が急速に進んでおり、労働力不足が顕在化していると言われています。
そのような背景から、2025年に『育児介護休業法』に大幅な改定施行が決定していますが、法令に対応した「就業規則」及び各種「規程」の整備はなさっていますか※。
※常時10人以上の従業員を使用している事業主は就業規則を作成し、行政官庁に届出ることが義務付けられてい ます。また、常時10人未満の場合であっても、労使トラブルを防止するために作成することが望ましいとされています。
法令遵守という観点からでなく、人手不足が深刻化している社会において企業が優秀な人材を採用し、確保し続けるためには、従業員の労働環境の整備が重要になっていくと考えられますので、就業規則や各種規程の定期的な見直しは、人的資本経営を推進する上でも必要不可欠になってきます。
今回は、少子高齢化社会において労働力不足に深く関係する育児と介護について、『育児介護休業法』から、現行の制度の概要と2025年の改正ポイント等を解説させていただきます。
1.日本の人口推移予測
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に取りまとめた資料によると、日本における日本人の出生数は1973年の209万人から2020年の81万人まで減少し、その結果、0~14歳人口(外国人を含む総人口)も1980年代初めの2,700万人規模から2020年国勢調査の1,503万人まで減少しています。
年少人口と称される0~14歳人口は、出生中位推計の結果によると、2021年に1,400万人台へと減少(図Ⅱ-2-1)しています。その後も減少が続き、2053年には1,000万人を割り、2070年には797万人の規模になるものと推計されています。
また、0~14歳人口の減少を総人口に占める割合(0~14歳人口割合)によってみると、2020年の11.9%から減少を続け、2026年に10.9%、2034年に10.0%となった後、2070年には9.2%となる(図Ⅱ-2-2)と報告されています。
(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)報告書」より抜粋)
上記の0〜14歳の年少人口、15〜64歳の生産年齢人口、65歳以上の高齢人口の3つのグループ別の人口推移・割合のグラフから、少なくとも2050年頃までは、年少人口と生産年齢人口は減少、高齢人口は増加を続けていくことが予測されています。
それに伴って、総人口に対する65歳以上の高齢人口の割合は年々増加して4割近くにのぼることは明らかで、今後ますます少子高齢化が進んでいくことは確実であると考えられます。
2.現行の育児介護休業法の概要
1)制度の目的
1992年に施行された育児介護休業法は、「子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資すること」を目的として制定されました。
2)現行の育児介護休業法における主な制度の概要
※一部の制度については、一定の有期雇用労働者と労使協定で定められた一定の労働者は取得できない場合があります。
- 育児休業制度
1歳未満の子がいる労働者が、子が1歳に達するまでの間で、申し出た期間につき取得できる。保育所へ入所できないなどの事情があれば、最長2歳になるまで延長が可能。
- 出生時育児休業制度(産後パパ育休)
産後休業をしていない労働者が、子の出生後8週間以内に4週間(28日)以内の期間(2回に分割可)につき取得できる。
- 介護休業制度
要介護状態※にある対象家族を介護する労働者が、対象家族1人につき3回(通算93日)までを上限に取得できる。
※常時介護を必要とする状態については、下記の厚生労働省ホームページをご確認ください。
⇒よくあるお問い合わせ(事業主の方へ) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
- 子の看護休暇制度
小学校入学前の子がいる労働者が、1年度で5日(小学校入学前の子が2人以上の場合は、10日)を限度として、1日又は時間単位で取得できる。
- 介護休暇制度
要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者が、1年度で5日(対象家族が2人以上の場合は、10日)を限度として、1日または時間単位で取得できる。
- 短時間勤務制度
3歳未満の子がいる労働者が、就業規則等にて会社で定められている1日の所定労働時間の短縮を申出ることができる。(要介護状態にある家族を介護する労働者に対しては、短時間勤務制度等の措置が義務付けられている。)
- 所定外労働の制限
3歳未満の子がいる労働者または要介護状態にある家族を介護する労働者が、就業規則等にて会社で定められている所定労働時間を超えた労働(いわゆる残業)をしない旨を請求できる。
- 時間外労働の制限
小学校入学前の子がいる労働者または要介護状態にある家族を介護する労働者が、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働を1か月について24時間、1年について150時間までにする旨を請求できる。
- 深夜業の制限
小学校入学前の子がいる労働者または要介護状態にある家族を介護する労働者が、午後10時から午前5時までの間に労働しない旨を請求できる。
- 不利益取扱いの禁止・ハラスメント防止措置・雇用環境の整備
事業主には、
①育児休業や介護休業等の申出または取得を理由とした労働者に対して、解雇その他不利益取扱いの禁止
②職場内のハラスメントを防止する措置
③育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
が義務付けられている。
上記制度は法律で認められており、就業規則等会社のルールに定められている、いないに関わらず、制度利用の対象となる従業員が請求した場合、事業主は当該休業や未就労時間を有給とする義務はありませんが、請求を認める必要があります。
育児介護休業法自体には罰則の規定はありませんが、違法な対応をした事業主は、厚生労働大臣から報告を求められたり、助言・指導・勧告などがなされます。また、事業主が勧告に従わなかった場合には、企業名や違反内容が公表されることもあります。
さらに、報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合には、20万円以下の罰金が科される場合もありますので、法律にのっとった運用を行えるように、まずは社内の規程を整えることをお勧めします。
3.2025年育児介護休業法改正ポイント
1)子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
- 働き方の柔軟化措置および個別の周知・意向確認義務(新設)
①始業時刻等の変更
②テレワーク(10日/月)
③短時間勤務制度
④新たな休暇の付与(10日/年)
⑤保育施設の設置運営等
事業主が、①~⑤のうち2つ以上を選択して制定することで、小学校入学前の子がいる労働者が、その中の1つを選択して利用できるようにすることが義務付けられました。
併せて、当該措置について、対象労働者に個別の周知および意向確認の義務化と当該措置の申出や取得をした労働者に対して、解雇その他の不利益な取扱いをしてはいけない事も定められました。
施行日:2025年11月30日までの政令で定める日(政令案では2025年10月1日予定)
- 所定外労働免除の対象範囲拡大
(厚生労働省「介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント」より抜粋)
- 子の看護休暇の見直し
(厚生労働省「介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント」より抜粋)
- 3歳未満の子がいる労働者のテレワーク導入が努力義務化(新設)
施行日:2025年4月1日
- 仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化
妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向を聴取し、その意向に配慮することが事業主に義務付けられました。
施行日:2025年11月30日までの政令で定める日(政令案では2025年10月1日予定)
2)育児休業の取得状況の公表義務の拡大
労働者数が300人を超える事業主に、毎年1回以上、育児休業の取得状況を公表する義務が課されました。(改正前:労働者数1,000人超)
公表すべき内容は、公表前事業年度における以下の①または②です。
(厚生労働省「男性の育児休業取得率等の公表について」より抜粋)
施行日:2025年4月1日
3)介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
- 40歳に達した労働者や介護に直面した労働者に対して、両立支援制度の個別周知・意向確認・情報提供・
研修等の義務化 - 介護休暇の対象範囲拡大
- 家族を介護する労働者について、努力義務の対象にテレワークを追加
施行日:2025年4月1日
なお、改正内容については厚生労働省のホームページにも案内されています。 ⇒mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
今回の改正は全ての事業者を対象としており、特に義務化される内容については、社内の規程などの更新が必要となります。同時に、新たな制度やルールについて、従業員に周知することや、社内研修などを通じて、育児や介護を行う従業員に対して適切に配慮できるよう啓発を行うことも重要になってきます。
法令違反とならないよう、施行日までに社内規程の見直しを実施することをお勧めします。
4.両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース)
令和2025年の改正で新設された、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充に関連し、事業主が下記①~⑤の中から2つ以上の制度を選択し、規程等を整備したうえで、3歳以上~小学校入学前の子がいる労働者がそのうちの1つの制度を選択・利用した場合に支給される助成金になります。
助成額は、2つの制度を導入した場合は20万円、3つの制度を導入した場合は25万円です。
【対象となる取り組み】 | 【利用実績】 |
①フレックスタイム制又は時差出勤の導入 | 6ヶ月間で20日以上利用 |
②育児のためのテレワーク等 | 6ヶ月間で20日以上利用 |
③短時間勤務制度 | 6ヶ月間で20日以上利用 |
④保育サービスの手配 ・費用補助制度 | 負担額の5割以上かつ3万円以上 または10万円以上の補助 |
⑤子の養育のための有給休暇 | 6ヶ月間で20日以上利用 |
会社に対象となる従業員がいる場合、施行日に先立って今年度中に制度を導入し、従業員に利用してもらうことで、助成金を狙ってみてはいかがでしょうか?
5.最後に
今後ますます進んでいくことが予想される少子高齢化社会においては、かつてのような、男性は仕事、女性は家事、育児、介護といった男女別のシンプルタスクな生き方ではなくなり、性別に関係なく、仕事、家事、育児、介護を行うという、男女共にマルチタスクな生き方が主流となってきています。
このような時代の流れの中では、従業員は、賃金の高低だけではなく、労働環境の良し悪しや働きやすさを含めて会社を選択するようになっていくのではないでしょうか。
労働環境を整える第一歩は、社内のルールブックである、就業規則や規程を整備することから始まります。
多様な働き方に対応した労働環境を整備することは、従業員のモチベーションと生産性を向上させます。また、規程を整備して会社のルールを従業員に周知しておけば、万が一労使紛争が起きた場合には、会社を守ることにもつながります。
厚生労働省の雇用関係の助成金のページを見ていただくと、従業員の労働環境を整えることで申請することができる助成金がさまざま用意されています。そういったものもうまく活用しつつ、これからの時代の従業員が働きやすい会社をつくり、人的資本経営を効果的に行うことで、持続的な成長を実現して、企業価値を高めていってはいかがでしょうか。
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