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【労務】「副業したいです!」従業員の申し出に会社はどう対応する?

コロナ禍のテレワークで、より副業の普及が進んだように感じられます。
皆さんは「副業」と言われてどのようなイメージを思い浮かべますか?

以前は、「他社の従業員や役員になる」というイメージが典型的なものではありましたが、現在はさまざまな形態の副業がありますね。
例えば動画投稿、ネットショップ、起業、FX、投資信託、スキルを活かしたフリーランス等々…、会社に雇用されない副業も増えています。

総務省・厚生労働省の調査によると副業希望者は年々増加傾向にあり、政府としても働き方改革で副業・兼業をより推進したいと舵を切っています。また、転職サイトdudaの調査においても、副業を認めている企業の割合が増加し、禁止する企業の割合が減少していることが分かります。

【参照:総務省「令和4年就業構造基本調査結果の要約 - 
副業がある者の数(非農林業従事者)及び追加就業希望者数(非農林業従事者)の推移(2002年~2022年)-全国」
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/index2.html
【参照:転職サービスdoda「副業をしている会社員の割合は?副業の実態調査(最新版)」
https://doda.jp/guide/fukugyo/

もし従業員から「副業を認めてください」と言われたら会社はどう対応すべきでしょうか?
今回は従業員の副業について、会社が備えるべき事項についてご紹介いたします。

目次

1.そもそも「副業」とは?

副業の定義について、法律で明確に定まっているわけではありません。
一般的には、メインとなる本業ではない別の仕事をすることを指すことが多いでしょう。

似たような言葉で「兼業」「複業」というものもあります。
前者の「兼業」も、本業以外の他の業務にも従事することで副業とほぼ変わらない言葉のように感じられますが、副業以上に労力をかける場合は兼業と称されることが多いようです。

ただし、働き方としては副業・兼業に大きな違いはありません。
後者の「複業」は、そのままの通り複数の仕事を持つことを言います。イメージとしては、複数の本業を掛け持ちしながらもって働くというものです。

2.副業が会社に与える影響とは?

従業員としては本業を続けつつ別の仕事ができ、なおかつスキルや収入も得ることができるため、副業のメリットが大きいように感じられます。

では、従業員を雇用する側としてはどうなのでしょうか?

従業員が副業を行った場合、会社は次の管理について注意を払う必要があります。

情報漏洩

従業員の副業と聞いて一番に懸念するのは、会社の技術・ノウハウ・顧客情報等の機密情報の流出でしょう。
一般に、従業員は会社に対して秘密保持義務・競業避止義務を負っています。
しかし、副業の中で知らず知らずのうちに業務上の秘密を漏洩してしまったり、競業によって自社の利益を侵害してしまう可能性があるかもしれません。

会社がこれまで積み上げてきた情報を勝手に利用されたり、ましてや利益相反行為が起こることのないよう、従業員の副業の内容について細心の注意を払う必要があります。

②労働時間の管理

労働基準法第38条第1項において「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の運用について通算する」とされています。
つまり他の会社で「雇用」されている場合は、それぞれの会社で働いた労働時間を通算管理する必要があるのです。

労働時間の通算により、大きな影響が出るのは給与計算でしょう。
原則としては、後から労働契約を結んだ会社が残業代の支払義務を負うこととなります。
しかし、次のような場合は先に労働契約を結んだ会社が残業代を支払わなければならないため注意が必要です。

(例)使用者A:先契約、所定労働時間5時間+残業時間1時間
   使用者B:後契約、所定労働時間3時間

この場合、他の会社で3時間働くことを知っているのに1時間残業させたため、使用者Aが残業代の支払義務を負うことになるのです。

※労働者ではない働き方(フリーランス等)をしている場合は、上記の考え方は必要ありません。

③給与計算・年末調整

前述した残業代の問題をクリアしたとしても、副業の内容によっては給与計算・年末調整に影響が出る可能性もあります。

例えば、従業員が副業として会社を設立し、その会社から役員報酬を受給していた場合、二以上勤務者として社会保険料を勤め先・設立会社とで按分しなければならないのです。

会社設立でなくとも、副業先の会社で社会保険の各種要件を満たしていた場合、副業先でも社会保険への加入が必要となります。複数の会社でそれぞれ社会保険の被保険者となる場合、二以上勤務届という書類を提出し、各社の報酬月額をすべて合算した上で会社ごとに負担すべき保険料が按分決定されることに注意しましょう。

また、合わせて年末調整時も要注意です。

年末調整の際は「扶養控除等申告書」を従業員から回収していると思いますが、従業員はこの書類を主たる収入を得ている1カ所のみにしか提出することができませんそのため、「副業先で同じ書類を提出してしまったので、こっちで提出した書類を取り下げてほしい」「書類を提出していましたが、実は弊社が副業先なので年末調整は不要です」などという事態が起こらないように、事前に注意喚起を行いましょう。

④健康管理

労働者は勤務時間外で副業を行います。そのため結果として長時間労働になってしまい、最悪の場合は不調をきたしてしまう可能性もあります。

「副業が原因の体調不良なんて会社に関係ない」と思うかもしれませんが、会社は労働者に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)があるため、副業の有無にかかわらずすべての労働者に対して心身の健康に支障がないように配慮を行う必要があるのです。

3.会社は副業を禁止できるのか?

先述にて、副業が会社に与える影響は少なくないことをご説明しました。
では会社への影響が大きいため、従業員の副業は全部禁止!とすることは問題ないのでしょうか?

実は、会社は従業員の副業を全面的に禁止することはできないのです。

前提として、会社は勤務時間内において従業員を指揮命令下に置くことができます。
しかし勤務時間以外は、憲法第22条「職業選択の自由」により、制限を設けることができないというのが基本的な考え方となっています。

では、会社は手放しで従業員の副業を認めるしかないのでしょうか?
もし就業規則に副業に関する規定が何も記載されていない場合は、残念ながら従業員の副業について何も統制することはできないでしょう。

そのため、会社は「副業を認める場合の条件」「副業を禁止・制限する場合」「副業を行う場合の手続き方法」等、就業規則等へ副業・兼業に関する各種事項を定めておくことが重要となってきます。

4.会社が対応すべき事項

では、副業・兼業に対して会社は具体的にどう対応すべきでしょうか?

副業禁止・制限事項を明確に規定

もし従業員が副業を始めようとした際、まず自分が勤務している企業の副業・兼業に関する就業規則を確認するはずです。

就業規則は従業員が守らなければならない会社のルールです。会社としても、会社のルールを明文化することで労使双方に遵守すべき事項を浸透させ、労使間トラブルを未然に防ぐための大切なツールでもあります。

そのため、就業規則へ副業・兼業を禁止・制限する場合の具体例を事前に規定してお必要があるのです。
なお厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン(外部リンク)」では、裁判例を参考に、会社が例外的に従業員の副業を制限できる事由として以下4つを提示しています。

① 労務提供上の支障がある場合

② 業務上の秘密が漏洩する場合

③ 競業により自社の利益が害される場合

④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

モデル就業規則(外部リンク)」でも、上記4項目の「いずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる」と規定されています。
このような規定例を参考に、自社に適した副業・兼業に関する禁止・制限ルールを規定しましょう。
ただし、就業規則に記載したからといってすべての副業・兼業を禁止できるわけではありません。
就業規則に記載する禁止・制限規定は、合理的な理由の範囲内になるように注意しましょう。

②副業を許可制に

会社は、従業員本人の申告なくして副業の有無・内容を把握することはできません。
そのため従業員の副業を容認する場合、副業内容等を記載した「副業申請書」を会社へ提出させるようにしましょう。

会社はその内容や労働時間を確認し、必要に応じて副業の禁止や制限をするという運用になります。
また副業申請時には、秘密保持契義務・競業避止義務について再度労使間で確認を行い、従業員が会社に対して負っている義務を意識させるのもよいでしょう。

なお副業で得た所得が20万円を超える場合、従業員本人は確定申告を行う必要もありますので合わせて注意喚起しましょう。

③定期的な状況報告の実施

副業を継続する中で、開始時から状況が変化する可能性もあります。
会社は、従業員が副業に対してどの程度の負荷がかかっているか、どのように状況が変化しているかを知ることができません。

人事担当者は対象となる従業員に対して定期的な状況確認を行い、副業・兼業による過労で健康を害す等、本業に支障がでないように注意を払ってあげましょう。

④規定を守らない場合の対応を明確化

就業規則に記載された禁止事項に従業員が抵触してしまった場合、会社がどのような懲戒処分を行うかについても事前に明確化しておく必要があります。

懲戒処分は、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の7種類にわたります。

どのような違反行為の危険性によって懲戒処分の種類が変わるとは思いますが、違反行為に対する会社の姿勢を示すためにも、懲戒処分に関する記載はあるべきと考えられます。

ただし前述1.と同様に、懲戒処分に関しても合理的な内容となるように注意しましょう。

5.今後の動き

働き方改革により、大手企業では副業の解禁が進んでいます。

一方で中小企業では、労働時間管理やノウハウの流出等、企業が抱えるリスクに対する懸念もあるでしょう。

しかし「働き方改革実行計画(外部リンク)」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)によると、「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効」とした上で、ガイドラインの制定等実効性のある手段を講じて普及を加速させていくとしています。

また、「副業・兼業の現状と課題(外部リンク)」(厚生労働省労働基準局提出資料)では、2027年以降について「希望者は原則として副業・兼業を行うことができる社会にする」と、副業解禁義務化を感じさせるような指標を示しています。

少なくとも、政府は働き方改革で副業・兼業を促進しているため、今以上に副業が一般的になることは間違いないでしょう。

このような世の中の動きの中、会社が従業員の副業・兼業について向き合う日も遠くないかもしれません。会社がどのような姿勢を見せどのような規定を設けるのか、この非常に悩ましい問題は切り離すことはできません。問題に直面する前に、想定される懸念事項をピックアップ・検討した上で、会社の実態に合った適切な就業規則を整備しておきましょう。

今回は副業・兼業について取り上げましたが、会社は他にも各種ハラスメントなど雇用に関する課題が年々増え続け、その都度対応を迫られています。
そこで大切になってくるのが、会社のルールを明記した就業規則の作成・運用です。

弊社では就業規則の作成・定期的な見直しのご相談を承っております。
この機会に就業規則の作成・見直しをご検討されていらっしゃる方は、ぜひ一度弊社までご連絡くださいませ!

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受付時間:月〜金 9:00〜18:00

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